19歳の不安/七尾きよし
 
 しわがれた老人の声が低く響き、それに続いて男と女の声が虚ろに空間の中に広がる。冷たく、そして何もなく、暗闇に包まれた空間。そこに起こる物音はすべて柔らかな海綿に沁み入るように、だんだんとその質量を失っていく。在るのは男の声、女の声、そしてかすれ、断続的な響きをもつ老人の声。
 老人はそのしわがれた声で言う。
「不安とは・・・・・・」
 そして瞬時にその声は消え、次にどこからか男の声がする。男の声は恐怖におののき、いや、何か分からないものに対しておののく。男は女に向かって言う。

「青白い顔をした男がにやりと笑って手まねきして誘うんだ おいでって・・・・・・」

「俺、はたちになれな
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