妻になった日/滝本政博
私は妻であるようだから
妻の声帯から声を出す
「夕飯はなんにします?」
私の息子があたかも私であるかのように返事をする
彼とは離れて暮らしているのに
「ひさしぶりにトンカツなどがよいです」
わたしは妻なので買い物に出かけ
最寄りのスーパーで妻の知り合いとよもやま話
私がいなくても一日は過ぎてゆく
死んだ父のことを思う
彼も寂しかったのではないだろうか
ところで妻はわたしのかわりに詩を書き出した
ときどき気難しい
野心と光の衝動が
暗い陰から這い出してくるのだ
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