ハエトリ紙/ゆるこ
 


琥珀色のぬらりとした
リボンのようなハエトリ紙を
白い壁の間借りした部屋に垂らす

夕焼けに光るそれはまるで
蜜をたらふく蓄えた大樹のようにみえて、

懐かしい実家の情景を誘ってきた



すべてが乱雑な部屋の中で
膝を抱えてうずくまっていた
剥がれた絆創膏をなんども直しながら
ただ、うずくまっていた

ぼうぼうな家の庭に
トンボが影を落としていった
誰もいない台所には
コバエがぶんぶんと 集っていた

いつ伸ばしたかわからない
べたべたになったハエトリ紙
夕焼けにぬらり、と光り
それっきりだった
そう、それっきり




台所の陰から
あのころの私がこちらを覗いている
夕焼けのなかでぬらり、と
影法師を伸ばしている




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