金属は湿っている
唇は乾いている
それは六月二十三日
信号は点滅している
壺屋の水は甘かったか
久茂地の水も甘かったのか
今は
酒屋の水も
なんだかとても酸っぱい
じんじん
今も
その花に隠れているのか
そこからも
誰かの光は見えているのか
じんじん
あの娘の涙を飲んで
落ちて来るか
じんじん
少し湿ったね と
旧道沿いの
あしもとのほうから
梅雨のにおい と
祖父のにおいがした
ふりかえると
あたり一面にシャガの花
思い出すひとがいるから
咲くのだろう
もう一度ふりかえると
祖父の家
明日から空家となる
君が百本の小説を乗り越え眠るころ
僕は一握の詩の前で童貞のままで
国際色の喧騒にしがみつきながらも
同じ月の夢に
ニャー
と哭く