カップ/山人
んだよ。ほかのカップに比べるとやたら安くてさ。でも何だか不思議な感じがしたんだよ。オヤジは嫌いだったけど、ちょっと味があって、肝心なところは単純で馬鹿だったオヤジになんとなく似ていたんだ、そのカップ。それにさぁ、そのカップ、なかなか割れないんだよね。最後の意地だったんだろうね、オヤジはモルヒネは使わないって言い張るんだよ。それに、何度も何度もうざくなるほど病室のベッドで説教食わせやがってさ。最後は言ってやったさ、おまぇなんか大嫌いだったよって・・・。でもさ、オヤジ、最後には涙流してさ、俺の手握るんだよな、参ったよ、俺。
何気に買ったカップだったんだけど、落ちても割れない、それに安っぽいグータラオヤジみたいで、何だか離せなくなっちゃったんだよ・・」
「雄ちゃん・・・」
由美が肩にもたれかかると
「きっと、お父さんの生まれ変わりなんだよ、そのカップ」
澄んだ、秋風がカーテンを揺らすと、カップが少し揺れた気がした。
二〇一二年 作
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