ある疑問/まーつん
「なぜ人は誰かを傷つけるの?」
と、娘が問いかけてきた。それは、私が常日頃胸に抱き続けている疑問でもあった。
「それは、自分が傷つくことを恐れているからだよ」と、私は答えた。
春の木立を歩きながらも、私たちの眼はいつしか下に向いていた。歩を進めるごとに小さく揺れる、おさげを結んだ娘の頭。それを見下ろしながら、私は今の答えを幼いなりのつたない一途さで咀嚼しているのが伝わってくるような気がした。
「どうして、人を傷つければ自分は傷つかないと思えるの?」
再び問いかけてきた娘の言葉には、歳に似合わない利発さがあった。
「相手が自分を恐れるようになるからだ。人は恐れる相
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