ありの子/丘白月
 
長い冬だったけど
温かい冬だった
深いトンネルだけど
優しい匂いで満たされていた
春の音が流れてくる
そっと覗くと
蕾がひらく音がした
眩しい
初めて春を見る
小さなアリが一人
そう一人 一匹じゃない
だって前世は人だったから
もう一度春からやり直す

カラスを見て仲間だと思い
いつか大きくなれば
飛べると夢を見る
バラに登って刺で一休み
三百人の兄妹を見下ろして
太陽が真上に来たとき
自分の大きな影が見えた
カラスのように
羽根が生えたように
振り返ると
マリーゴールドの妖精がいた

初夏の風が歌い
ミツバチの羽音が伴奏する
合わせるように
行列が始まり
アリの子も急いで降りていく
妖精が手をとって
飛んで行くかいと言った


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