アヤメの妖精/丘白月
 
思い出すのは
生まれたばかりの頃
神話時代の想い出

私は美しい青空を頂いて
風と水の精から祝福され
街中に蕾を用意した

やがて咲いた花は美しい水色で
まるで空の子供のようだった
空に帰ろうとするくらい
まっすぐにつま先立ちする

でもその晩にあの子は
一本摘んで花弁を噛んだ
小さな唇が切れるほど強く

私の力では消えないほど
強い想いの血が一滴
魂の底まで沈んで
花の色は紫に変わってしまった

神があの子を抱いて言った
この子を忘れるなと
名前はアヤメだと

ときどき思い出すのは
あの子の血が太陽のように
真っ赤で熱かったということ
なによりも涙はなかった

名前がなかった私は
アヤメという名をもらった
あの子も神だったのかもしれない
私を本物にするための



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