停車場線/たもつ
 
 
 
駅が眠っている
私たちと同じ格好をして
そのおかげかと思う
狭くなる
窮屈になる

駅の隙間に挟まったしおり紐
五十六頁、大切なことは書いていない
早朝の停車場線を人が歩いて来る
何かを相談するように列車に乗る
空になったホームで
今日の駅にとって大切なことが決まる
しおり紐が動く

「お父さん、駅はいつ目が覚めるの」
「坊や、駅はね、いつまでも眠っているんだよ」

父親は嘘をつかない
以降、七十八で他界するまで
坊やはそう信じ続けた
父親より二歳ほど長生きした
坊やの鼓動を抱いて
駅はいつまでも眠り続けた

「お父さん、狭いね」
「坊や、坊やも同じ格好で寝ているよ」
「そう、窮屈になるね、でもありがとう」

駅の寝言で私たちは目覚め
停車場線を駅へ向かう
途中、ぽっかりと天気だけがある
特別急行が通過する
通過出来ない列車だけが停まる
土産など渡せるものは何もないけれど
人はいつまでも笑っていてほしい
 
 
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