老いたアスファルトの波の上、無機質ながらんどうのクジラ/ホロウ・シカエルボク
 
るか気になった、数年前に取り壊されるという噂を耳にしてからどうなったのかまるで知らなかった、古い記憶をたどって俺はその場所を目指した、そこに辿り着くには半時間ほどかかった、取り壊しは確かに始まったようだが終わってはいなかった、縦長の巨大な建築物は半分を壊されたまま荒れた駐車場の片隅に横たわっていた、それは凝固したクジラの死骸のようだった、俺は車止めに腰を下ろし、その光景を眺めた、誰がここにどんな夢を馳せて、そしてどんなふうに破れたのかなんて想像することは出来なかったけれど、夜の中で、何の意味も持たず、何の目的も持たず、何の未来もなく横たわっているそれは、なぜだか少し美しいようにも俺には思えたんだ、今夜はここで朝まで時間を潰そうか…夜明けが来たときにはそれは少し悲しいものに見えそうな予感も少しはしたけれど。



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