春の森/丘白月
 
静かな春の森
やわらかな光
風と踊る花たち

森に満ちる日差しが
海のように揺り籠のように
眠る妖精をつつむ

夢を見てるのね遠い春の夢を
閉じた瞳から閉じた唇から
やさしい記憶があふれてる

誰もいない静かな森で
時おりゆれる妖精の羽音が
どこまでも響いていく

羽音はいつしか
春の空に溶けてしまって
空の海でおよぐ恋人の足に
そっと絡みついていく
気づかないほどに

遥かな過去からの
夢がシャボン玉のように
幾つも小さく大きく
夢の森に生まれて
届いては割れて
ひとつでもいいから
抱いてくれたらと願い
幼いままの心の妖精は
いつまでも夢を見て眠る


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