粉机/竜門勇気
あり、感嘆していました。
そこに粉机がゆうゆうと泳いでいたのです。
わたしはこのように粉机が泳ぐとは知りませんでしたし、そのような光景を二度と見ることはありませんでした。
あっけにとられて見ていると、用水路にかぶさるようにおごる木の枝からカマキリがぽつ、と落ちました。その瞬間粉机は途端に悠とした泳ぎをやめ弾いたバネのようにのたうつようにしてぐび、と寒さにかじかんだカマキリを飲み込みました。
そしてわたしの目を見ました。あんなに深く目を見るのは赤子が試すときと師が許すときだけでしょう。
ですから、あの粉机はわたしの赤子のように愛おしく、師のようにわたしを愛していたのです。
かつてどの海岸にもいた粉机が海を捨ててこのような物語はもう生まれないでしょう。
僕の先生は教室の窓のカーテンを大きな音を立てて引いた。
ずっと禁忌だった窓の外を先生は見た。
僕も少しだが見た。先生は窓の外へ飛び立っていった。その両腕は鳥のようにも腫れ上がった肉にも見えた。彼の赤子と師は喜び勇んで啄み始めた。
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