その女は派遣で時給千二百円だった/岡村明子
赤いセーターの女
ひっつめの髪
きみどり色の閃光
作業
眼鏡
作業
光
作業
反復
業務
右
左
複写機
吐き出される
モノクロ
ドット
三千枚の
「@」の顔
「@」の顔は
百枚に一度くらい
「あ」とか
「う」とか
言っていたが
二千枚を過ぎたあたりで
苦痛にゆがみ
二千八百枚を過ぎた頃
血痕が浮き出し
あと少しというところで
赤いべた塗り
最後の一枚は
出てこない
髪が
ひっかかって
こびりついて
使えない
「@」の顔は
シュレッダーに
かつおぶしのように溜まっていく
脳
ノー
断末魔の声は
オフィスの喧騒を少しだけやわらかくした
係長、
お茶です
修理は今日中に参ります
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