死人の詩/卯月とわ子
 
僕から遠くへ

何処でもない遠くへ

肉体から離れれば離れるほどに

あれほど泣いていた理由が分からなくなったよ

涙が枯れることはないだろうと

あんなに思っていたのに

いまじゃ瞼は乾いてカラカラさ


お別れというものが

こんなにあっさりしたものだとは

何も残せなかったと思っていたけれど

その方が良いこともあるんだろうと

今なら理解もできる


残されたものは

それ相応に生活していくんだ

だからと言って

僕が消えたわけでも無いんだろう

彼らのどこかしらに僕は居て

ふとした時に思い出したりするんだ

たとえば、ホラ

爪の先を見つめた時とか

親譲りの爪の形は

君にも受け継がれているから

そういう

日常と呼ばれるものの中で

僕は生きているんだ


だから

涙が枯れた今

何も惜しいとは思わないよ
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