エッセイ/たもつ
万年筆の花が咲く店でホウキを買った
女性が一人で店番をしていた
ここまでいくつかの霜柱を踏んでやってきた
あの万年筆の花があれば霜柱ももう少しうまく書けたな、
と思いつつ何も言わずに
すべては清掃である
店は兼住宅、というわけではなさそうなので
この女性もいくつかの霜柱を踏んで来たと思われる
万年筆の花が綺麗ですね、と言うと
女性は何も言わずにホウキをもう一本つけてくれた
愛想はないけれど清掃なのだ
女性の左手の薬指にはプラチナ色に光る指輪がある
本当はプラチナなのかもしれない
お代を受け取った女性がレジを触っている
会計を待っている間
大切な話は暗闇の中
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