あけみ/いとう
 
度だけ
寝た振りをしている僕の耳もとで
「本当はあなたのせい」と呟いた
泣く資格がないのは知っていたけど
一人になってから泣いた
泣いている自分に驚いた
何かが怖かったんだと思う
今では少しわかる

最期はあっけない
予兆もなくビルから飛び下りて死んだ
自殺だった
僕は現場近くの交差点まで行って
それ以上一歩も動けなかった
僕が殺した
でも泣かなかった
結局彼女のために一度も泣かなかった
自分のために泣いたことはあったけれど
その涙は彼女に届かない




戻る   Point(15)