旅・遺作/石村
 



  旅


こころは
しらないうちに
旅に出る

笛のねに さそわれて
むかし 人びとがすんでゐた
海辺の村で
潮風にふかれてゐる

いつになつたら
かへつてくるのか

神さまにあふまで
かへつてこないつもりか



  遺作


午前二時をすぎると
たれにもひかれたことのないピアノが
ひとりでに 鳴りだす

たいせつな詩を
書きわすれた
詩人のやうに


(二〇一九年十二月三十日)

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