卒業式/たもつ
 
 
 
砂漠で椅子を並べている僕の耳元で
佐々木さんがささやく
卒業生たちは丁寧に会釈をしながら
前方から順序良く着席していく
人は生きているとささやきたくなる
だからいつか人は死ぬの
と、佐々木さんがささやく

ささやく佐々木さんの口から
さっき食べたイチゴチョコレートの匂いがする
佐々木さんはイチゴチョコレートが好き
なのではなくイチゴが好き
なのではなくイチゴの香料が好き
イチゴの香料のためなら死んでも構わないはずなのに
ささやいているから
まだ死ねない

さ、さ、ささやく佐々木さん
さ、さ、ささやかれる武田くん(僕、なお仮名)
おさ、おさ、幼馴染の
[次のページ]
戻る   Point(2)