そしてがらんとした部屋のなかだけが/ホロウ・シカエルボク
きみはうす汚れた扉にもたれるのをやめて
新しいにおいのする通りのほうへと急いだ
おれは正体の知れないジレンマにすこしとまどったあと
洗面台で昨日の夢をようやく洗い落とした
冬の街は過度に繊細な佇まいで
窓には結晶がはりついていた
耳がきいんとするノイズは
きっとこいつがひとしれず立てる鳴声なのだ
きっと今夜から子守歌は行方不明
インスタントコーヒーはより消費される
ラジオは昔の詩ばかり流して
なのに歌詞は明日のことばかり
いまわしい過去は
鶏の首をひねるみたいに殺されるべきだ
きみにはわかるだろう、いや
おれよりもずっとよくそのことがわかっているはずだ
その日最初の
かんたんな食事をしながら
おれは時の隙間におきざりになった
そしてむかいのビルの窓で反射する太陽を見ていた
昼過ぎになって
まぶしくなくなるまで
なにを見つめていたのか
思い出せなくなるまで
戻る 編 削 Point(5)