ぬえ/たこ
ぬえ
しんしんと降りつもる秋の夜に
うぶごえをあげる ぬえがいた
かよわい躰をふるわせて
まぶたをわななかせている ―小さな命
ふかふかしたうぶ毛の先で
無数の夜霧がしずくとなって
きらりと、星影を輝かせながら
ぽとり、ぽとりと
おちてゆく
こぼれ落ちた星の夜の
ざわりとした天蓋は
かたすみに隠れる闇より深く
いまにも、ぬえをのみこみそう
ふるえるぬえよ、
お前はなにを想うのか
あたたかく鼓動する血脈に
いきものの火を宿らせて
ぬえよ、いま、なにを想うのか
夜はながく、月は遠い
暁に光が差し込んで
闇を打ち砕くのはまだ先だ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)