風/もっぷ
逆に歳月というものをいやというくらいに
思い知り 再会を後悔するか
そういうふうではなくて
そのどちらでもなくって
少なくともわたしは
有名な会社に務めるご主人とお子さんは二人
住んでるところが世田谷区の一戸建てという
彼女のどこにも嫉妬心は起きず、
彼女がいまのわたしの境遇に
あれこれとめぐらす心を持っていないことも
経験上よくわかっていた。
でも この 未知のさびしさはなんだろう
かなしいときのなみだをともないたいような
この 曖昧な、感情はなんだろう
店の窓からは さっきまで凪いでいた存在が
翼を広げたようで
金木犀のよい香りが聴こえてきた
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