郷(さと)/「ま」の字
 

山岳は厳然とたかく
町も、路も、ひとの気配も、時にするどく時に鈍く光っている
ここしか知らないここ
「おーい
少年だった。老いた。  (少年だった。
去った。


喉にすこうし血の匂い
(病弱な子だった)
そのころは世界のどこなりとも通り路があり
路を継ぎ換え継ぎ換え ひくい家々の軒を抜け
今では露わの胸と腕を伸べた記憶(おのれ)を追い抜いてゆく
(殷賑なれ 華やげる土俗 外れさびた街)
やがて草の実の飛びかう野のさきに
うっすら海にくちをあけたものは現れる
暁まえの様子に似て
うす昏い輪郭も美しゅう 
おれは死んでしまいたいか!
生きてしまいたいか!
(おーい
こたえろ
そのさきの海に走りこめば
(言ってみろ!
沖の堆に群れる黒ぐろとしたいきものたちの影に
あたたかの日は溜まり
「おーほ!
行ける 行ける 行ける
いつかは行けるのだと
歓びが
湧きかがやき しらしらとさわにさやぎ


またさびしく
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