郷(さと)/「ま」の字
 
風がどっとおろし
茶と黒のふとい縞がうねりあがる
「おーい」
影がよぶ
なんだ陽とくらがりとが罵り、奪いあう場に誰もいない
草の実は野をとび またとび つぎつぎととぶのに
純潔な実も 描いた軌跡ひとつひとつも
(裏かえり遠ざかってゆく鳥の影も
わたし以外の者はすべて忘れる
「おーい
これは誰の記憶、誰の視界、時は誰の持ち物
立ったかたちを置き去りに 
一気に堤を駆け下りた

 血の色透けたら みぎ ひだり
 在るか 無いかの そら思案

ほおお!
サムライの世はとおに去った
土酋ののぞみ儚くも帝国の時代(みよ)も過ぎ
いまの辺鄙の地はいたずらに冷却し
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