ユニットバスで肩まで浸かろうとする。/カンチェルスキス
 
ばいいのか
 ということだ
 ミルクの入ったコップを持ち上げると
 テーブルに白い輪ができていた
 これは確かに白い輪だ
 人差し指でぬぐって
 その指を舐めてる間に
 新聞に刻み込まれた全部の文字と写真とイラストが
 方向を問わず逃げていった
 おれは白紙の新聞を持っていた
 そのうち白紙も逃げていった
 皿にはマーガリンとハチミツを塗ったトーストが
 残っていて
 おれの胃の中に詰め込まれたがってると
 思い込もうとしてるうちに
 部屋のブザーが鳴って
 黄色のニット帽の老人が立っていた
「何の用ですか?」
 と訊いたおれに
「いや、何となく」
 おれたちは二日目に入っても
 無言で突っ立っていた。
 




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