ベランダの蜘蛛/Seia
 
干しっぱなしで冷たくなったタオルに
小指の爪の先よりちいさく
半透明の蜘蛛が
糸を垂らしてぶらさがっていた

ひかりの加減でようやくきらめく
一本の途中をつまんで
ベランダのへりに移植した
たぐりよせて(たぐりよせて蜘蛛が
登りきったと思えば
風景に溶けてみえなくなった
そして日が暮れた

今日も生活だった
明日も多分生活で
一週間後も生活だ
その終わりのない(ある)サイクルから
蜘蛛は足音も立てずに抜けていった(ようにみえた

観測できないものが存在しないのならば
一生に一度しか会わないひとの人生は
どこへ消えていくのだろう

降りたことのない駅で降
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