小説の中では生きれない/愛燦
 


仕事終わりに 君と駅で待ち合わせ

駅の椅子に腰かけて携帯を開くと、電車に揺られているであろう君から
「疲れた。今すぐ甘いものが食べたい気分」
と連絡

考えるより先に身体が動いて、駅に備え付けられたコンビニで
何食わぬ顔で詰め合わせの飴を買った
直後すぐに改札奥に君を見つけて
わざわざ買ったと悟られぬよう慌てて袋の口を開ける

改札を抜けてきた君は
「疲れた。今すぐ甘いものが食べたい気分」
先ほどと同じことを繰り返すので
まるで偶然持っていたかのように、カバンの中から封を開けておいた飴の袋を取り出し君に渡す

君もその偶然に感謝の言葉を述べて嬉しそうに口の中で飴を転がす
文字に起こすと健気なものだ
小説ならばお互いの姿が目に浮かび、そして私の心情がよみとれよう

しかし現実は小説ではない
文字へ起こす小説家もいない

私はただ偶然に飴をもっていただけの者だ
ただそれだけの者だ

気付かれたい
気付かれたくない

誰かこの気持ちに終止符を打ってくれ




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