広場/山人
広場
初冬の匂いが満ちた森には、サワグルミが直立して生え
草たちの淫靡な吐息はすでに失せている
たとえばそこにリスが俊敏に動き回り、私たちをじっと眺めていたならば
森はかすかに立体的になって映ったことだろう
少し遅い到来だったが、初霜が淡い萎えた雑草の上に塗されている
数百年前、往来のあった古道は時間に凍り付き、白骨化している
時間を優にさかのぼれば、菅笠をかぶったやまびとたちが
杉苗を植え付けている光景が、ろうそくの炎のように脳裏にうかんでくる
それから、という文字が
幾重にも重ねられて
杉は私たちの前に後ろに天を突き、そびている
静かな眠りを栄養として、暗黒を食べ
土と会話し空にあこがれ、伸びて行ったのだ
時間を遊覧して、広場を抜けると胸を素通りするように
景色は大きく手を広げて私たちを抱擁する
きっと私たちが死にゆくときも、この時の広場は限りなく拡大し続けて
広大な生の宇宙が、私たちとの死とともに育まれていくのだろう
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