風景観察官の手紙/朝倉キンジ
 
   
バージェス化石群のうかぶ
地底の暗がりで
水晶の音を聞きながら
ねむっていた
あなたへ

拝啓

東北本線の夜行便が
山沿いの陸橋をちいさくわたり
けわしく青らむ空の奥には
星が灯りだしました

今はほのかに
湿気に溶けた百合のエステルが
私をつつみ 
山ぼうしは冷たいかげを
空になげています

むこうではさっき見かけた人影が
あらたまったように
河原の石をこつこつ踏みながら
手は星あかりにかざし
敬虔に プレセペ星団の
極座標をはかっているようです

星はあんなふうに
清い態度で臨まれる
新鮮な客体でしょう
寒い今頃なら

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