忘却の彼方に/HAL
きみにひとつだけお願いがある
ぼくのことを覚えておいてくれないか
ぼくが生きているうちは
ぼくのことは忘れてくれていい
ただぼくが死んだ後
ぼくのことを思い出して欲しい
つまらないことでいいんだ
些細なことでいいんだ
時折でいいんだ
どうかぼくのことを覚えておいてくれ
そうでないと
ぼくはこの世にいたことにならない
そうでないと
ぼくは忘れ去られたままになる
きみが思い出してくれた時
ぼくはこの世に存在することになる
それはまだぼくが生きているということだ
そんな
この世にいたことにならないひとが
忘れ去られたままのひとが
数え切れないくらい多いことを
ぼくはようやくに分かる歳になった
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