羅紗バサミ/もちはる
 
真夜中に音がする
引き出しからだ
起きてそっと確かめる
羅紗バサミの刃が開いている
力を持て余していたのか
鈍く光り出番を待っている
シャキリシャキリと
衰えていない音

亡き父は
厚い布の他に
何を切ったのか
刃を広げていねいに研ぎ
油を浸み込ませた布で拭き
ふーと息をかけ 陽にかざし
「子どもはさわるな」と
そっとしまった

とうに扱いに慣れたわたしも
厚い布の他に
切りたいものがある
シャキリシャキリ…
空切りしながら
厄介な顔をうかべながら
なおもついて回る
あの縁を

二枚刃が哂う
「錆びていませんよ
 切れるものなら
 なんなりと…」

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