さざなみ/鈴木歯車
 
いつの間にか
やわらかい風の速度が
しゅんびん、
という空耳を残して
細いぼくの体をすり抜け
ドップラー効果みたいに 
ずっと後ろの方で
デリケートな生き物に進化する
それはきっと海からやってきたんで
泳げぬぼくはつい走りすぎてしまう

気管支が人より狭くて
たばこを吸うたびに 
のどのおくで
うすめまくった波の音がきしむから、
街灯の白々しい光の下でぼくが
ふいに、
死に顔になってしまうような
そういう天気ばかりを愛してしまう

傷のすずしく開く音がしても
 振り返ってはいけない
  振り返ってはいけない
   振り返ってはいけない、

ぼくはさざなみのような呼吸をしている
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