僕らはいつも自分だけの譜面を探しているように/ホロウ・シカエルボク
 

僕らの切り損ねた爪は廊下の板の隙間から果てしのない奈落へと落ちて行った、僕たちはなすすべがなく、神経症的な音楽の中野先生のピアノに合わせて「帰れソレントへ」を各々のパートに分かれて歌うのが精一杯だった、先生のピアノの譜面台にある八分音符の尻尾は僕らの喉仏を貫けるほどに研ぎ澄まされていて、おかげで僕たちは音楽の授業があった日の夜はいつも、毒薬を嚥下するような小さな音を立てて先生が踏みつけるダンパーペダルの夢を見た、音楽室だけは常に空調が稼働していて、それはおそらく楽器がたくさんあるからなのだけど、夏の教室に慣れ過ぎた僕たちはたびたびそのせいで鼻の具合を悪くした、先生にはわからないんだ、だって彼は
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