あの日、ボクは走っていた/坂本瞳子
燻んだ空が
呼びかけてくるようで
俯いたまま走り出した
このままどこへ行くんだろうか
自分に問いかけながら
スピードスケート選手のように
腕を左右に振りながら
走り続けていた
息が切れて苦しくなって
汗が流れ続けようとも
走って走って走り続けた
誰かにぶつかりそうになっても
否、実際にぶつかってしまったけれども
それでも走り続けた
躓きそうになりながらも
蹌踉めいてふらついて
崩折れそうになっても
もう止められない止まらない
といった体で走り続けた
向かい風に撃たれても
稲妻が煌きを放とうとも
水溜りや泥濘に阻まれようとも
走り続けるしかなかった
猫が後退していようとも
犬に吠えつかれても
烏が罵りを投げかけてこようとも
ただひたすらに走り続けた
それだけのことだ
戻る 編 削 Point(1)