些細なこと/坂本瞳子
 
膕の少し下
要するに
左の膝の後ろ側、ど真ん中の窪んだところの下側に
青痣ができていた
直径二.五センチはあろうかと思われる
ほぼ円形の黒ずんだ痣がそこにあった
薬指の腹で押してみても痛みはない
一体
どんなことをしたらこんなところに痣ができるというのか
こんな部位をどうやってどこにぶつけたりしたのか
自分でもまったく思い当たることがなかった
自分は夢遊病にでもかかっていて夜中に歩き回っているんじゃないか
そう思う方がまだ安心だった
この痛みを伴わない青痣のせいで妄想が止まらない
明日の朝にはきっと消えている
そんな願望さえ抱いてしまう
青い液が蛇のように這い出して
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