県境/山人
ラーで眺め
大カーブを曲がる
もう後部座席に女たちの気配は失せている
二級国道の脇には大手電力会社の巨大な送電線が連なり
その下には、どうしようもないほどの緑色のススキの群落がひしめいている
かつて、その斜面を初夏の熱波に照りだされ
私たちは無言で労働した場所だった
あの草は私だ、あちらの草の塊も私
あちこちに私のようなものが点在していた
草のように刈られ、再び発芽し、生きているだけだが死んではいない
次第に峠のS字カーブは下降し、直線道路に差し掛かるころ
幾日か続いた雨の影響で川はうっすら濁っていた
間欠ワイパーの間隔を少しだけ広めにとり
濃い、雨で立体的となった緑の彩を
私は眺め、車の律動の中に沈んでいった
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