県境/山人
 
十数キロ走ると県境となる
トンネルの中心を境に、向こう側にいけるのだった
県境は六十里と呼ばれ、霧があたりを覆いつくしていた
前線に覆われた列島だったが、ここ数日は安定しているという
登山口には誰もいなく、カード入れが少し傾いていた

整った衣服、顔立ちのそれぞれの女たちは車から下車し
あたり障りのない会話を放ち、別れた
なにかに左右されるでもなく、あちらとこちらを見極めた女たち
生活を静かに引き出しに仕舞い、豊かさを綺麗に振り分けて
日々を入念に紡いできたのだろうか
自我を見つめ、誰よりも己を愛し、時間を積み上げてきたのだろう

細身の女たちと鮮やかな雨具をサイドミラー
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