入道雲が立ち去る頃/北村 守通
積もっていた細かい土砂と一緒に流し出された。
センセイと呼ばれる男が入ってきたのはそれから五分くらいたった頃だった。雀の巣のような頭から雨水を滴り落としながら彼はいつもの自分の席に座ろうとした。そこは先ほどの彼女の席の右隣りであった。センセイが腰かけようとしたとき、彼女が立ち上がり二言三言話しかけた。最初要領を得なかったようなセンセイの顔はぱっと明るくなり、上機嫌で給仕を呼んだ。そしていつもの自分の席ではなく、彼女の席の前に座り直すと、やってきた給仕に二人分の飲み物を注文した。二人は乾杯し、しばらく話し込んでいた。やがて入道雲が自分の仕事を終えて帰路につく頃、二人は連れ立って店を出た。彼女の顔はセンセイの影になってみることができなかった。センセイは終始上機嫌だった。それが生きているセンセイの姿が目撃された最後だった。
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