入道雲が立ち去る頃/北村 守通
入道雲が街を洗う準備に追い立てられている頃、彼女は無言でテーブルに向かった。まるで決められていたように奥のテーブルにまっすぐ向かうと、パーテーション代わりのプランターを背にして座った。後からわかったことだが濃い緑のワンピースにどのような顔があったのか誰も覚えている者はいなかった。髪はどうやら黒色で肩までおろしていたらしかったが、それとて怪しいものだった。彼女はごく当たり前に彼女であって、それゆえにごく当たり前の光景であったから、誰一人として注視する者はいなかったのである。
さて、彼女が席について少しすると、入道雲は自分の仕事を始めた。定刻通りのことだった。阿鼻叫喚は大粒の水滴によって路上に積も
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