花譜/鈴木歯車
 
裏切られて 裏切られて
恋の代わりに
安らかな呼吸を信じよう
あたかも にじんだ少女が
色彩に埋もれるように

粒子のざらついた日光が
ピントのきかない景色を
さらにまだらに削ってからというもの
言いようのない不安は
きまって後から見つかるようになった
細い体の内部へ沈んでゆく
死にも似た感覚から逃げ出すようにして
夜は神経のようにトゲトゲとしている

輪郭のボケた少女が
にじんで、
にじんで、
にじんで、
花の香りに紛れて、
空気にかき混ぜられて、
雨に貫かれて、
消える

本当の空が無い国をひた走った
午後ばかりの風が
爽やかに響くことはもう
ないだろう

知りたいのは傘の群れの中で
もっともぼやけた脳波だから
笑ってるのか泣いてるのか
いまいち分からないような顔で
ぼくの話を聞いてくれる人が居たら
よかった、
のに
ね、
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