スペクトル/DFW
 

六月の夜の街で 通りすぎるはずの弾き語りに足をとめて

どうするべきか戸惑いつつ 疎らな聴衆の背後に加わり耳を傾けた
酔っていたせいかもしれない
気持ちのいい風が吹いていたからかもしれない
金髪をなびかせてアコースティックギターを爪弾く彼女は 透明を震わせて雪を解かす冬の川のように澄んだ声を
孤独で憂いを帯びたメロディーに 乗せて ' 答えなどない  というフレーズを 夜の街にリフレインさせる

彼女はこんなにも儚く歌っていいのだろうか

答えなどない ' という答えを奏でることは彼女にとって答えではありえない事実を 一瞬言葉よりはやく届けられる声が路上にすっと染み
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