真夜中、旋律のない第一楽章/ホロウ・シカエルボク
 

メノウ色の小瓶がたったひとつ、初めて立ち上がろうとする動物の子のように、リノリウムの床で転がって、鈍い非常灯の光を微かに反射していた、わたしはなにか他のことをしにその部屋に訪れたのだが、そのせいでなにもかも忘れてしまった、窓の外には嘘のような闇が張り付けたように鎮座していた、あらゆる生きものが自分の知らないあいだに死に絶えてしまったのではないかと、じっと佇んでいるとそんな気分にさえなってくる日付変更線のあたりだった、わたしはなにも急いではいなかったので、しばらくその瓶を見つめていた、長く眺めていると、よくある御伽噺のように自分の身体が小さくなって、その瓶の中に閉じ込められてしまうのではないかと
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