【批評ギルド】『潮騒の丘』嘉野千尋/Monk
の話者も海に救いを求めたのではないか。一度は救いを求めたの
ではないか。
海は「救ってくれない」のではなくて、「救えぬ」のである。海は能動的な生
き物ではない。全てのものは海から生まれ、海に還るのかもしれないが、生ま
れて立ち上がり丘に上がるのはその人自身の足であり、還るために海にたどり
着くまでの旅路を辿るのもまた同じく彼自身の足だ。
なんだかごもっともなことを言われてしまい、ちぇっと舌打ちの一つもしたい
が、納得してしまうところがつまりは「ちょっとかなわんなー」という海のす
ごいところだ。重い足取りで海くんだりまで救いを求めてやってきたのに、
けっきょく自分で立ち上がれと
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