なつぐも 他二篇――エミリ・ディキンソンの詩篇に基づく(再掲)/石村
 

希望というものには青い羽根がはえているらしく
ときどきとんできてわたしの肩にとまる
そしてくだらない歌をいつまでもうたう

わたしがふきすさぶ風にもてあそばれているときも
あいつは甘くやさしいうたをうたう
こっちはぼろぼろ もみくちゃなのに
のんきなものだ どんな大嵐も
あんたの口はふさげないわね とおもうと
ふと笑みがこぼれる
そしていつも
それにすくわれる

空も土も凍りつくよな寒さの日にも
島影さえ見えない大海原で
ひとり船を漕いでいるときも
のんきな歌をうたってくれるあいつ

なにも食べないので餌代もかからない
なかなか健気なやつなのである


[次のページ]
戻る   Point(18)