なつぐも 他二篇――エミリ・ディキンソンの詩篇に基づく(再掲)/石村
希望というものには青い羽根がはえているらしく
ときどきとんできてわたしの肩にとまる
そしてくだらない歌をいつまでもうたう
わたしがふきすさぶ風にもてあそばれているときも
あいつは甘くやさしいうたをうたう
こっちはぼろぼろ もみくちゃなのに
のんきなものだ どんな大嵐も
あんたの口はふさげないわね とおもうと
ふと笑みがこぼれる
そしていつも
それにすくわれる
空も土も凍りつくよな寒さの日にも
島影さえ見えない大海原で
ひとり船を漕いでいるときも
のんきな歌をうたってくれるあいつ
なにも食べないので餌代もかからない
なかなか健気なやつなのである
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