宿り木の元で/由木名緒美
 
からだを崩して
水の音が静かに静かに
重力に逆らい天上へとそそぐ

赤ん坊がボールの中で宙返りをしている
老婆は手編みのベストを厳かにまとって
庭木は樹海の水脈を眩しげに浴びる

洞穴の静寂 宮殿の潤沢
懺悔室の質素さ
楽園さえをも真似る窓辺のアパートで
古い栞を紐解けば
物語は熱い血潮を帯びて秒針を逆戻る

耳を澄ませば青空の滴る音がする
一粒残らず掬って
少しも濡れずにはばたこう
還るべき場所はすぐそこに

あなたの還る母体なのです
あなたの発つ棺となるのです
その毛細血管を編み上げる針先で
あなたのふっくらとした踵の肌色まで
寸分違わずに編み上げ
[次のページ]
戻る   Point(8)