旧作アーカイブ3(二〇一六年二月)/石村
 
た 美しいものを 私は呼吸する 

さうだ もう 私の心には 何もない 
そのままの私と まつさらの今が あるばかりだ

そして今 痛いまでに 私は 知つてゐる
私は どこから来たのでも どこに行くのでもない と
この ほの暖かい かなしみは 永遠のものだと

窓は 今日もひらいてゐる――明日も ひらいてゐるだらう
昨日来た風は かはりなく そこにとどまつてゐるだらう
向かうのまばゆい世界は どこかに遊びに行つてしまふだらう

私はまた 包まれてあるだらう しづかに ここに
ひとつきりの このかなしみに


(二〇一六年二月六日)




  訣
[次のページ]
戻る   Point(15)