棺の部屋/ホロウ・シカエルボク
ガラス窓の表面にはいつからともつかない埃が付着し、それにどこにも逃げていかない湿気が浸透して、古い糊のようになって不愉快なまだら模様を作り出していて、こんな小雨の降る夕刻にはなおのこと気分を暗くさせた、身体を椅子から起こす気になれず、指に挟んだまま忘れていた煙草の火が、広い洋上で発せられた救助要請信号のように薄暗がりの中でぽつんと浮かんでいた、明かりをつけて本でも読もうか、さっきからもう何度そんなふうに考えただろう?そうしたほうが少しでも得るものはあったが、この一週間のあいだに溜りに溜まった疲労は突然降り注ぐ雹のように心臓を殴り続けていた、目を向けることなく、おそらくそのあたりに置いてあったは
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