懐かしの鷽の森/ふじりゅう
 
口笛が足りなくなって
いつもの森へ 懐かしを浴びに行く
二度と来ないって
吐き捨てた唾は 乾ききって久しい

丸っこい姿が愛おしい
ウソ 小さな鳴き声で 哀しさの片鱗を語る
裏っかわも
表っかわも 端正な表情で
えだは軋ませて 後に何一つ 残してはくれなかった

貫流の様な人波が 右へ 左へ 中央へ
あばらやに棲む怒鳴り声が
やたら記憶から引き出されている
もう私に声掛ける者誰もなし。

たまに森を散歩するのが また日課になっている
日頃は陽をまともに感じさせてもくれぬ
恋人・恋人・スーツ・カップル・恋人が
あられの如く通っては過ぎる

ここでは君の声など、もう聴けはせぬ
コンビニエンスストア、スーパーマーケットだの
ENEOSの看板は 私から
様々なものを強引に提供し
そして根こそぎ奪っていった
森 それ森でなく
それは人々のすみか
それでも、毎日ここへ足を運ぶのは

嘘でも、誠でも、最早関係はない
今は小さな声で ただ鳴かれたい
丸っこい姿愛おしく
合図の口笛を吹く 哀しく 哀しく響き渡る…
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