優生学/紀ノ川つかさ
君の手には千円札が一枚ある
それは誰かにあげるための千円だ
千円あれば 貧しい五人家族が
一日生き延びられる
子供達は学校に行き
親は仕事を探しに行く
千円あれば 動けない一人の障害者が
一日生き延びられる
ヘルパーさんが来て
食事を作って食べさせてくれる
さて どちらに千円を渡す?
五人対一人
数が多いから
五人の方に渡すといいのかな?
そう考え始めた時
君の長い旅が始まる
それは長い歴史の中で
誰も目的地にたどり着けなかった旅だ
時に誘惑に負け
時に罠にはまり
時に自分が人間であることも
忘れてしまう
それは長くけわしい旅なのだ
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