旅人とストーブ/服部 剛
私は、とある田舎の
ガソリンスタンドの部屋に
長い間 置かれた
ストーブです
日々まばらにも
旅人が給油にきては
この部屋を訪れ
目の前の椅子に 腰を下ろし
両手をあてて はあ… と
白い吐息を昇らせてから
外の車のドアを開け
道の遠くへ去ってゆきます
私に声はないけれど
金の炎の窓があり
こちらから
あなたを見ると
両の瞳に小さな火が映り
ふたつの水晶がわかるのです
私に声はないけれど
あなたが両手をこすりつつ
あったかいな… と
呟くとき
私は私であることに
しみじみ浸っているのです
さまざまな天気の日を
めげずに歩み続けてきたあなたが
自らの歴史にうなずけるように
私は今日も
小さな窓の中に
金の炎を燃やし
この部屋で、待っています
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