氷彫刻/フォマルハウト
そうです
何ということはないのです
全てが元に戻っただけ
あなたが現れる前の春の日に
街の景色も空を流れる雲の色も
何ひとつ変わっていないでしょう
ただ困ったことに
わたしの全身が
恐ろしく強固な意志をもって
あなたをけっして忘れようとはしないのです
あの日
あなたの優しいささやきを聞かなければ
あるいは
あなたの胸のあたたかさを知ることがなければ
わたしは無邪気に
夏の訪れを喜ぶことができたでしょうか
あなたしか愛せなくなったのに
その姿を見失って
わたしはひとり
めぐる季節から取り残されたまま
時間の狭間に凍り付いてしまいました
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